十二単衣を着た悪魔
十二単衣を着た悪魔を観ました。原作は内館牧子の小説とのことですが未読です。でも源氏物語のあらすじくらいは知っています。それで十分楽しめる作品なのです。
現代人が平安時代にタイムスリップとかいうネタはありきたりですが、本作は源氏物語の小説世界に現代の就職活動中の大学生が迷い込むという、ちょっと異世界転生ラノベのナーロッパ的な平安時代の宮中物語なのです。
しかも、源氏物語で光源氏の敵側である悪役のひとり弘徽殿の女御の視点で描かれていて、それはそれで面白い。本当にこわいグリム童話的な、源氏物語を貫く宮中の勢力争いが垣間みれます。
弘徽殿の女御は女性ながら表舞台でどうどうと政治その他をしたいという現代でススんだ女子という設定。ただその野望の説明で玄宗皇帝と楊貴妃を引き合いに出すなら、玄宗の父方の祖母の中国市場唯一の女帝、武則天を例に挙げないのは不自然極まりない。観客が武則天(akak則天武后)知ってるとは限らないと配慮した演出なのだろうか? いやふつう玄宗皇帝の方が知られてないよね、楊貴妃はともかくね。
弘徽殿の女御は三吉彩花が演じます。眉毛はあるしお歯黒はしてませんがそれ以外はまあまあちゃんと歴史考証されたお召し物です。ただメイクは完全に現代風ですね。
主人公のライメイ(雷鳴?)は現実世界から源氏物語の解説パンフレットを持ち込んでおり、これから物語世界でどんな事件が起きるのか正確に予言することができたため、陰陽師として宮中と関わることになります。観客も源氏物語の知識があれば主人公と連動して予言力を発揮できます。ここらへんとても楽しい。史実を基にした大河ドラマを観ている気分ですね。
ところが、現代基準ではろくでもないダメ男である光の君が人生で一番不遇であろう須磨での蟄居に入る直前で主人公は現代に帰還してしまうんですね。ここで主人公は現代の便利グッズをたくさん持って源氏物語世界に帰ろうとする。ここらへんはもう源氏物語を知ってるだけに予定調和的にまた源氏物語世界に戻れると思っちゃうんですが、そこがどんでん返しなのですよ。と言われても源氏物語を知らない人にはまったくどんでん返しになっていないというこれまた教養の有無により受け取り方が全く異なる作品なのです。
本作見どころは、伊藤健太郎と伊勢谷友介のスキャンダル俳優が出ているだけではないわけで、できれば源氏物語のあらすじくらいは調べてから観賞するとより楽しめると思います。