でかいの日記帳

2012/11/23 Friday

アニメ版ねらわれた学園

Filed under: - dekaino @ 19:05 このエントリをはてなブックマークに追加 ≪∞絖のはてなBookmark被リンク数

アニメ版ねらわれた学園を観ました。あの眉村卓のジュブナイルSF小説を原作にし、薬師丸博子主演の角川映画や原田知世主演のテレビシリーズ以外に、NHKドラマや村田和美主演のギャガプロ版など、幾度も映像化されている超有名作品です。

主人公ではなく敵役の京極リョウイチ。美少年です。

あまり宣伝されていないのですが、サンライズが2012年にアニメ映画として映像化したものが本作です。本作はおそらく計算づくの企画です。
2006に大ヒットした細田守版時をかける少女は、(1)何度も実写で映像化されている有名な角川映画作品を初めてアニメ化でリメイク、(2)単なる原作のアニメ化ではなく共通の世界観をもつ続編的独自ストーリー、(3)実在する土地や建物を舞台にする演出手法、という戦略で仕掛けられ、見事に成功し細田守ブランドが確立するに至りました。
本作はそれを踏まえ、(1)時かけに並ぶ角川映画黄金時代の作品ねらわれた学園を採用、(2)同様に続編独自ストーリー、(3)江ノ電沿線が舞台 と見事に踏襲しています。それどころか(1)の角川映画にならい人気が確立しているアイドルの渡辺麻友(AKB48のまゆゆ)が主演、(3)の利点を生かして江ノ電とタイアップしてご当地アニメプロモーションを仕掛けるという徹底ぶり。

封切前の宣伝が少なく初動の上映館数も少ない(神奈川県内でたった3館、しかも地元の江ノ電沿線に上映館なし)のも、実は計算ずくなのかもしれません。今となっては信じられませんが細田版時かけも封切時は本当に上映館が少なかったのですよ。

学園物小説の映像化は実写の方が断然有利です。同世代の子役達を多人数あつめて1週間も合宿生活すれば、演技以前に自然にリアルな学園生活的行動をするようになるし、ロケ場所も実在の校舎や校庭が簡単に見つかります。気の利いた脚本と演出家さえいれば、役者や撮影地の心配不要で、リアルな作品を作れるのです。
特に、SFは空想SFネタの部分だけ大胆な嘘をつきそれ以外の部分はリアルに徹すればするほどSF的説得力が増し面白くなるものです。映像すべてが自由自在な空想産物であるアニメはかなり不利です。個人的には本作を観た上で、やはり大林宣彦監督や清水厚監督(村田和美主演版)の作品の方が好きです。

その学園物をあえてアニメでやるのであれば学園生活の描写には力を入れず各キャラの演技に注力して、いわゆるセカイ系といわれる作品形式にするのが最善でしょう。で、本作もその通りセカイ系な演出作品になっています。
原作は受験戦争の圧力や戦後民主教育により推奨される生徒自身の自治である生徒会活動など、リアルで重苦しい学園生活の描写が続く中、だんだん違和感が大きくなり未知への恐怖が煽られていく演出で、学習塾が重要な役割を持ってたりするのですが、本作では明るくて設備の整った夢のような学園での生活で、文化祭も体育祭も修学旅行のようなハレのイベントはなく、また中間試験やら進路相談みたいなリアルで重苦しい表現も徹底的に避けられ、淡々と毎日同じ平凡な日々が続くようないわば不自然な描写が続きます。
作品舞台が神奈川県湘南となっており実在の江ノ電とタイアップしている関係で、観光名所をたくさん出さなくてはいけない大人の事情もあるせいか、事件はだいたい学園の外で起きるためせっかくの素敵な学園の設定があまり活かされてません。観光名所でストーリーが進むのですがとても不自然です。何が不自然かって観光客が一人もいないのです。どこかの離島の海岸のように住民以外は猫すらいない雰囲気が寒々しい。クルマ一台走らない国道134号や、人っ子一人いない江ノ島、いくら早朝とはいえ貸切状態で中学生女子が一人だけでサーフィンする砂浜など、不自然というよりシュール、超常現象に近いです。
確かにこのような絵は実写では撮れません。そういう意味でアニメで映像化している意味はあると思います。ほんとシュールですよ。
実は作品舞台は現代ではなく斜陽化した近未来日本って設定なのかも知れません。

実写だと中高生という設定なのに20歳過ぎの役者が出てて、あーやっぱりキツいってことがあります。過去の実写映像化作品へのオマージュなのか本作でも絶対に実年齢が中学生ではないだろうというキャラがたくさんおります。特にひきこもりで留年してしまった山際さん!! いくらダブリでも中二女子が私服でガーターストッキングを自然に着こなしてはいけない! こんな中二女子ありえない。とにかく♀キャラは異常に早期発育している人ばっかりであります。

ちょっとネタバレですが、劇中ではほぼ説明されないので原作を知らない人にはわからないと思いますが、本作は原作の続編的世界観で、主人公の関ケンジの祖父は原作の主人公の関コージであり、敵対するキャラの京極リョウイチはやはり原作で主人公と敵対していた京極少年の息子なのです。京極リョウイチの母はやはり京極についていった人物は明示されませんが原作を知っていればなんとなくわかるとは思います。そうあの高見沢ミチルなんでしょう。それ以外は考えられない。そういう前提知識を持って再度本作を観るとまた違った感想が得られると思います。

未来人で主人公の敵である京極は、世代が違うというか前作の敵キャラである父とはだいぶ違います。父は自分の任務を正義であると信念を持って遂行する確信犯型で、自分を慕ってくる女生徒も目的のために遠慮なく利用する肉食系です。それに対し本作の息子の方は今風にかなりの草食系男子。自分の任務の意味はある程度理解はしているもののふらふらとブレていて、本当の正義かどうか確信できていない様子。しかも自分を慕ってくる女生徒を利用しないどころか、邪魔だから排除しようとする味方からその女生徒を守ってしまう始末。あまりに優柔不断。しかも能力的にも太陽と月の比くらいに関ケンジに劣るらしい。草食系だから結局はバトルアクション見せてくれないし。見た目のカッコよさに反して実は結構ダメンズなリョウイチ君なのでした。

ヒロインの声を演じるまゆゆは意外とうまいです。素人っぽいところが逆にいい感じで、細田版時かけの仲里依紗と同様にはまり役だと思います。
ただエンディングの歌はちょっとつまらない。これは秋元康の才能がないせいだと思うけれども。大人の事情でしょうがなかったと思いますが、できることなら大林版の主題歌だった、松任谷由実の「守ってあげたい」をまゆゆがカバーで歌った方がずっと良かったと思いますよ。
なんだかんだいって心に染みるいいストーリーですし。

細田版時をかける少女のように口コミで人気が出てロングランになるのか、それともEvaQの大動員にかき消されて無残にも忘れ去られていくのか、意外と博打的な時期に公開された本作。もし博打に負けたらすぐに上映終了されてしまう可能性があります。結構いい作品なので、原作に思い入れがある人もない人も見て損はないと思う作品です。

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