太陽
太陽を観ました。
ロシア人のアレクサンドル・ソクーロフが撮った昭和天皇の終戦前後の心情をつづった映画です。ミニシアターランキングでは堂々の1位。かなり注目されているようです。
観た映画館は横浜のムービルです。以前にも書いたように、休館寸前のところを東急に救われた横浜老舗の映画館です。以前の懸念点だった「東急レクリエーションの映画鑑賞券が使えるか?」は解決しました。使えます。東急太っ腹だなぁ。営業形態は昔ながらのいつでも出入り自由、出ない限りは何回でも観賞可能です。シネコンによくある全席指定総入替制とは大違いです。たまにはこういう小屋もいいですね。上映ラインナップの方は本作のようなマニアックなものもやるようになってきたので、東口の109シネマズとの差別化を計っているのでしょう。
本題に戻って、太陽の話です。主演の裕仁天皇を演じるのはイッセー尾形。資料映像をおもっいきり研究したようで、まさに形態模写のような演技です。イッセーらしいといえばイッセーらしい。彼だけが何の先入観がなくても、昭和天皇だとわかります。
それに反しそれ以外の役は作劇上の役割でしかありません。キャストの役名も役職でしか出てません。侍従とか大臣とか米軍の将軍とか。
日本の首相も東条とは似ても似つかないどころか誰が首相なのかすらわかりません。御前会議に出てた誰かなんだろうけど。進駐軍の司令官もマッカーサーと似せようともしていないし、劇中に固有名詞で呼ばれることもありません。ただ General ってだけです。
つまり、ヒトラー〜最期の12日間のような綿密な取材の上に再現したドキュメンタリーではなく、ほぼ仮想戦記に近い想像の天皇像です。
おそらく日本側の資料を管理している人の協力をまったく得られてないのでしょう。リアリティさを期待して観たらガッカリすると思います。
イッセー尾形の演技以外リアルな部分はありません。イッセーにしても皇太子への手紙を現代仮名遣いで書いちゃいますから、時代考証的にはかなりぬるいのです。
東京空襲のシーンはハウルの城の空襲シーンのように生物的な飛行機の形をした化け物が爆弾を落とすという幻想的な表現でお茶を濁しています。
あと皇居(江戸城)の車両での出入りのシーンはミニチュアのジオラマを作って表現しているのですが、これがいい出来です。昔の円谷特撮のような精巧な出来です。エンディングのクレジットが流れるときに画面に出る上空から見たマットペインティングもいい味だしてます。
日本もこういう作品に資本参加するなり、資料を提供するなり出来ないと文化的にダメと言われてもしょうがないと思う。負の遺産を隠すだけではダメでしょう。