ダンボ(2019)を観ました。実写のダンボです。わたしは最初に映画館で観た作品が1941年版のアニメのダンボ(と併映のシャーロットのおくりもの)だったのですが、旧作の設定を踏襲しつつまったく違う作品となっています。監督はティム=バートン。ティム=バートンらしい解釈がされているのです。
まず、旧作では象や子猿などサーカスの動物たちが普通にしゃべります。ダンボだけはセリフがない(ちょっと緘黙症的な表現かも知れない)。しかし、本作では動物はあくのでも動物、感情は持っているし、共感もするけれど、あくまでも人間の視点からみた動物という扱いなのです。そこで旧作でストーリーを動かすカギとなった猿は単なるイタズラ猿となり、曲馬芸人のホルトの子ども達がその役を担います。
時代考証もしっかりしていて、時代は1919年 つまりジャスト100年前、大陸横断鉄道で全米各地を巡業するサーカス団が舞台となります。曲馬はホルトが戦争から帰ってくるのですが、左腕をなくしていました(要は傷痍兵)。そして戦争中に妻もインフルエンザで死んでしまっていたのです。この戦争とは第一次世界大戦、ホルトはヨーロッパ戦線に出征していたのでしょう。当時100万人弱の米兵がヨーロッパら送られて戦いました。また妻が罹患したインフルエンザとは名前だけは有名な「スペイン風邪」です。アメリカを起点に全世界に流行して多くの人が亡くなりました。不必要なくらい考証ばっちりです。
この第一次世界大戦から世界大恐慌までの約10年間、1920年代はアメリカ経済がとてつもなく調子が良かった時代。明るい未来をみんなが信じられた夢の時代だったのです。だからこそドリームランドが輝いてみえたのです。
本作ではディズニー映画としては珍しいことに人が死にます。ダンボの母象のジャンボが公演中に暴れたことで、なかば自業自得的に観客の一人がテントの下敷きとなり事故死します。この事件のために母象ジャンボは売られてしまうのです。非常にシビアな設定ですが、たとえその動物に罪がないとしても人が死んだ事件の棋院になっていれば処分せざるを得ないという、人間社会の厳しさを的確に表現しているとも言えます。実際、薬殺死させずに売却だけで済ますのは温情的すぎるくらいです。サーカス団の団長は最初は金に汚い悪人のように表現されますが、団員たちの生活を守るためそうならなざるを得ないだけで、実は優しい人物なのです。
そしてダンボの空飛ぶシーンのCGもよくできています。まさにファンタジー。ダンボ搭乗前のシャボン玉のピンクの象の幻影シーンもなかなか美しい。正直ダンボがいなくてもこのピンクの象の投影だけで客が呼べるのではないでしょうか?
最後のオチも含めて明るい未来を信じるスピリッツがあふれていて素晴らしい映画です。まさに子供とみても安心な映画。