でかいの日記帳

2012/6/30 Saturday

虹色ほたる 〜永遠の夏休み〜

Filed under: - dekaino @ 14:35 このエントリをはてなブックマークに追加 壕蚊祉 羂檎紊鋍帥のはてなBookmark被リンク数

虹色ほたる 〜永遠の夏休み〜を観ました。久々の東映アニメーションのオリジナル劇場長編アニメです。どれくらい久々かというと30年ぶりらしい。30年の間、テレビシリーズの映画化しかやってこなかったのか。ある意味凄い。
虹色ほたる
オリジナルと言っても原作はありまして、川口雅幸の同名小説が原作となります。ただし映画化にあたっていろいろ脚色されているそうです。私は原作を読んでないのでどこが脚色されているのかわかりません。

CGをまったく使わずすべて手描きのアニメです。東映アニメーションらしい力技? カネかかってます。背景はジブリ風の写実的なタッチで、人物は上の画像のようなかなり独特な線の少ない劇画というか昔の中国アニメというか不思議なタッチです。止め絵だと違和感ありますが、動いているとそんなには違和感ありません。まぁでも嫌いな人は嫌いかも。

30年ぶりのオリジナル作だけあって、かなり冒険した作りとなっています。人物のタッチもそうですが、脚本や演出もかなり前衛的。主人公の小学生のユウタくん(上の画像の左の子)が主人公なのですが、徹頭徹尾すべてのカットがユウタ主観視点のシーンです。ユウタがいる場所で、ユウタが見たり聞いたりしたこと、感じたことしか表現されません。普通の映画だと主人公以外の登場人物の視点でも様々なことが語られますが、ひたすらユウタ視点だけで攻めます。
つまり、ユウタの体験を観客も追体験するだけの映画です。それでいて、時代を超えたタイムスリップという複雑な物語設定をきっちり観客に理解させるという、かなり難易度が高いことに成功しています。脚本の完成度がかなり高いんですね。主人公が見てないこと聞いてないことは観客の想像力で補完するしかないわけですが、そのバランス具合が絶妙に巧いのです。

たとえば、ある日ユウタが女子が書いたらしい差出名のない手紙をもらうシーン。ユウタ本人にとって唐突で、ユウタの体験しか知らない観客にとっても唐突でしかないイベント。でもその先までみれば、ああそうだったのかと観客にはわかる仕掛けになっています。小学生男子の狭い視野、同じ年頃の女子への無関心さによる驚きを、観客に感じさせつつ、話の筋はちゃんと理解させる高度な演出です。

また、大人の知識があればもっと深い考察もできます。舞台となる宮前村は夏のホタルが名物。でも村の田や水路にはホタルはいなくて、沢を登って水源池までいかないとホタルを見られない。これに意味するところは… 要は宮前村の農業ではじゃんじゃん農薬使ってるってことです。農薬を使ってる田や水路にはホタルは住めない。でもこんな虫だらけの環境で農業するなら農薬使わないと無理なんだよね。ここらに1977年の山村のリアルさを感じませんか? 変に自然賛美せずリアルな山村の営みを表現しているのだ…くらいの深読みが可能なのです。これもユウタ主観以外の表現をすべて排除しているからこそ、できることです。

音楽も松任谷夫妻の楽曲が素晴らしい。音響効果もいいです。ただ花火シーンでは遠くから街の花火をみているんだから、ちゃんと花火が見えてから音が聞こえるまでのディ例を表現してほしかったなぁ、そこだけ残念です。

画面の情報密度は濃く、特に背景にいろいろな裏設定のヒントがちりばめられていて、何回見直しても新しい発見がある、非常に奥深い作品です。

残念なことに興行的には明らかな失敗のようです。上映している劇場数も少なく上映期間も短くされている様子。早めに観ることをお勧めします。

子供向きのようで実は大人にぜひみてほしい作品。

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