エクソダス:神と王
エクソダス:神と王を観ました。リドリー=スコット監督の出エジプトの物語です。原題は"EXODUS: GODS AND KINGS"、GODS and KINGSと複数形になっているのが肝。つまりユダヤ教・キリスト教・イスラム教という一神教の神とは別の神、たとえばエジプトの神々がいるという視点で描かれています。
贅沢な予算でグラディエイターのような派手な映像を作ってはいますが、時代考証的にはかなりいい加減です。というかもはや時代考証的に正しくしようとする試みは捨て去り、映像美のみを追求しているようです。
古代エジプトには騎馬の風習はないし、アブミや鞍は後の時代の発明品です。馬の品種もラムセス2世のエジプト人が使役していたのはエジプト産のロバ。当時のエジプトに馬はいなかったんですね。
それと偉大なるファラオ ラムセス2世はあんな馬鹿じゃないですよ。あまりにもひどい。主役のモーゼを優秀だとみせるための演出とは言え酷過ぎます。
モーゼも持ち上げ過ぎ。あんな立派な男じゃないですよね。父祖の土地で父祖のように暗そう、要は非定住の遊牧生活に返ろうって無茶な信念をヘブライの民に押し付けた男であり、エジプトの都市生活に慣れた民衆の不満は相当だったと聖書にも書かれてます。モーゼが死ぬまでは定住できなかったんですよね。モーゼの死んだとたん、ヘブライ人は枷が外れたように近隣の城塞都市を襲い、年を奪って定住したという歴史があります。
恐ろしい神にふさわしい恐ろしい宗教的指導者だったわけで、シナイ山にこもって十戒を岩に彫ってた時も、モーゼがいない間、鬼のいぬ間をいい事に、民は怖い神様を忘れて別神の偶像崇拝とかやってたりして、山を下りてきたモーゼが超おこったって話も聖書にあります。
現代的価値観ではただのやばい狂信者です。
モーゼ本人もいろいろ悩んでたんだぜって本作のメッセージ、まったくもって素直に受け入れられません。まぁ他の神を貶めてはいないあたりはまだ多様性が認められててマシとは思いますけどね。
紅海を渡るシーンが妙に科学考証してる風な演出で、かえって胡散臭く感じられました。
エジプトロケをやっているのはいいのだけれど、スフィンクスとかピラミッドとか現在の映像をそのまま使っててどうにもおかしい。
その時代のスフィンクスの鼻がナポレオン軍の兵が射撃練習の的にしたせいで欠けたままなのっておかしいでしょ。予算があるならスフィンクスもピラミッドもCGで当時の美しい姿を再現しろよと思ってしまいます。
時代考証を無視してファンタジー方向で頑張った神話の映像化作品です。