コクリコ坂からを観ました。言わずと知れたジブリ最新作、宮崎吾郎第二回監督作品ですよ。
脚本は借りぐらしのアリエッティと同じく、宮崎駿と丹羽圭子の共著。共著と言っても宮崎駿はアイデアや構想を出すだけで、テキストのほとんどは丹羽圭子が書いているのでしょう。
で作品なんですけど、商業的にみて、アリエッティよりずっといい作品に仕上がってます。普通に面白いしわかりやすいし、でもネタにして語るぐらいには劇中で説明されてない裏設定があるし、プログラムピクチャーとしての出来はかなりいいですよ。しかもこれ尺がたったの95分。カルチェラタンの取り壊しの話と、風間の出生の秘密という2つの話を混ぜて同時進行するアメリカドラマでは定石の手法で意外とボリュームがある話を詰め込んであるのに、たった95分とは宮崎吾郎はプログラムピクチャーの監督としては間違いなくそれなりの才能がありますね。作家方向ではなくてマネージャ方向の監督の才能。
ただ宮崎監督の意図を推測すると、これ本当は高畑勲に監督させるつもりの企画だったんじゃないかと私は邪推します。この手の淡々とした群像劇を作らせたら高畑勲は本当に巧いですからね。しかも短く安く作るのも得意。そういう意味で宮崎吾郎は父の駿ではなく高畑勲の方向を目指してたんじゃないかと思います。ただ、その視点で本作を見直すと巨匠高畑勲と比較するのも酷なんですが、いろいろアラも見えてくるんですよ。
まず高畑なら動物をもっと効果的につかったろうなということ。コクリコ荘の住民のだれかがペットを飼っててもいいし、カルチェラタンに誰が飼ってるかははっきりしないマスコットみたいな動物がいてもいい。だいたい港と船乗りの話なのにカモメもウミネコも飛んでない海ばかりって、演出以前に作画的にもジブリらしくないです。このあたりはどうにも高畑勲の足元にも及んでいない。動物のほかに幼児とか小学生も出てこないし、観客層設定を考えればそれもありなんでしょうけど、夏休み映画ならもうちょっと子供が見て感情移入できる何かがほしいところです。
宮崎駿の影響なんですけど、設定の黒い部分にいろいろでてますね。時代設定を原作よりずっと古い東京オリンピック前年にしたあたり。その頃の高校生って要は終戦直後に生まれた世代。主人公の親ははっきり言われてないけどばりばり海軍さん。海の父は軍医にならずに海軍士官になったから勘当されたわけですね。そして朝鮮戦争にも掃海や物資輸送で戦争に参加して戦死したんだけど、当時日本は戦争に参加してない建前だから、国からは何の補償もなくて残された妻子は苦労したと。もし戦死しなかったら海上保安官か海上自衛官になったのだろうか?
ツッコミどころは多いけど今年の夏休み映画の中では上の方だと思います。