でかいの日記帳

2010/6/7 Monday

運命のボタン

Filed under: - dekaino @ 7:58 このエントリをはてなブックマークに追加 純帥海里呂討Bookmark被リンク数

運命のボタンを観ました。
SF作家リチャード=マシスンの短編"Button, Button!"を原作というか原案にして、2時間の映像に仕上げた作品です。原作は10ページ足らずの分量なので、ほぼ新作です。
マシスン作品はI am Legendもそうですが、そのままストレートに映像化されることはなく、必ず曲げられてしまう宿命にあるようです。

本作の原題は"The BOX"。物語の重要な役目を果たす装置のボタンがついた箱 the BOXがそのままタイトルとなっています。邦題は原作に先祖がえりしたのか「運命のボタン」です。

実は本作を見逃すところでした。マシスン作品が映画化される、タイトルはthe BOXだという記憶だけが頭に残っていて、邦題はすっかり忘れていたのです。映画館の上映スケジュールにボックスというタイトルがあるので、まだ上映している安心安心と思っていたら、なんとボックス!って本作と全然違うボクシングを題材にした邦画だったんです。なんと紛らわしい名前!! 気がついたときは本作のロードショーはほとんど終わっており、わざわざお台場にあるシネマメディアージュまでみにいく羽目になりました。TOHOシネマズと同じ形態なのにシネマイレージカードが使えない謎の映画館です。場所がいいせいか土曜の夜はレイトショーでも正規料金を取る強気の商売。なぜかJCBカードを見せると300円引になります。

「ボタンを押せば100万ドルもらえるが、その代償として見知らぬ誰かか1人死ぬ」という装置を渡されたら、あなたはどうしますか? 基本ストーリーはこの宣伝文句に尽きます。それ以上でも以下でもない話。
わざわざ100万ドルを1億円と翻訳してるサイトもちらほら見受けられますが、、当時の円レートでは3億円くらいの価値はあり、現在2010年の1億円とは桁違いです。とはいっても600万ドルの男の開発費の1/6に過ぎないわけですが…

10ページの短編を引き延ばすために非常に凝った設定になっています。まず時代は1976年、ベトナム戦争は米国側の敗戦で終結し、外貨為替変動制が導入されドルがどんどん弱まっていったアメリカ斜陽の時代。この時代にNASAで働く技術者とその妻を主人公としています。アポロ計画も終了して宇宙開発戦争もじわじわと下火になっていましたが、まだ米国は火星無人探査のバイキング計画を、ソ連は金星無人探査のベネラ計画を遂行していた人々が内惑星探査に興味を持っていた時代の物語です。

70年代中頃はSF文学もアツかった時代、そしてノンフィクションではカール=セーガンのCOSMOSがベストセラーとして売れていたそのような時代です。本作はそのようなサイエンス熱に浮かれた時代を、三丁目の夕日のごとく忠実に再現することで、単なる短編小説を長編映画に転換することに成功しました。

当時のアメリカの文化人は世界を相対視して評価する、今のネットで言う左巻き脳の天下であり、旧来の西側資本主義を疑問視する向きがありました。歴史的にもアメリカは1980年代を頂点に国力が落ちていったわけです。ソ連はそれ以上に没落して国自体が消失してしまいましたが。

本作に出てくるThe BOXは、その文脈でいうと「資本主義」の象徴と言えるでしょう。資本主義では市場にいるプレーヤーはみな自分の利益だけを考えてガンガンボタンを押しあっている世界。全プレーヤーが利己主義的に行動しても、神の見えざる手または戦争が自動的に調整してくれて、みんなハッピーになれるという嘘くさい世界観のもとで動いています。それっておかしくない? そういうメッセージが本作には込められているように思われます。ここらのユートピアな近未来という青臭い赤化思想がまさに当時のSFシーンを再現していて素晴らしいです。アーサー=C=クラークは作中で神格化されてるし。

ただし終盤からオチにかけては、どうにも歯切れが悪くてつまらない。まぁI am Legendもそうですが、本来のテーマを肯定した決着はハリウッド資本の意に背くので、どうしようもないのでしょう。観客もそんな作品みたくないだろうし。客はキャメロン=ディアスが見たいだけなんだよね?

70年代アメリカが好きな人にお勧め

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